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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

そこまで、聴いたとき、美奈子は自分の立っている廊下の床が、ズーッと陥込むような感じがしたかと思うと、支配人が駭いて彼女の右の肩口を捕えていた。

「あゝ危い! しっかりして下さい!」

彼女は、最後の力で、自分のよろめく足を支えた。が、暫らくの間、天井と床とがグル/\廻るような気がした。

「いや、お駭かせしてすみません、たゞ青木さんの東京のお処だけが承りたかったのです。」

美奈子が、顫える声で、それに答えると、支配人は幾度も詫びながら、倉卒として去った。

もう、美奈子の弱い心は、人生の恐ろしさに、打ち砕かれてしまっていた。彼女が部屋へ帰って来たとき、彼女の顔色は、傷いている瑠璃子のそれと少しも変っていなかった。

が、丁度その時に、瑠璃子は長い昏睡から覚めていた。美奈子の顔を見ると、彼女は懐しげな眸で物を云いたそうにした。

「お母様! お気が付きましたか。」

少し明るい気持になりながら、美奈子は母の耳許で叫んだ。

「あゝ、美奈さん。まだ? まだ?」

五

消えかゝる灯のように、瑠璃子の命は、絶えんとして、又続いた。

翌日になって、彼女の熱は段々下って行った。傷の痛みも、段々薄らいで行くようだった。