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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

花模様の青い絨氈の敷かれた床の上には、桃花心木の卓子を囲んで、水色の蒲団の取り附けてある腕椅子が五六脚置かれている。壁に添うて横わっている安楽椅子の蒲団も水色だった。窓掩いも水色だった。それが純白の布で張られている周囲の壁と映じて、夏らしい清新な気が部屋一杯に充ちていた。信一郎は勧められるまゝに、扉を後にして、椅子に腰を下すと、落着いて部屋の装飾を見廻した。三方の壁には、それぞれ新しい油絵が懸っていた。左手の壁にかゝっているのは、去年の二科の展覧会にかなり世評を騒がした新帰朝のある洋画家の水浴する少女の裸体画だった。此家の女主人公が、裸体画を応接室に掲げるほど、社会上の因襲に囚われていないことを示しているように、画中の少女は、一糸も纏っていない肉体を、冷たそうな泉の中に、その両膝の所迄、オズ/\と浸しているのであった。その他卓子の上に置いてある灰皿にも、炉棚の上の時計にも、草花を投げ入れてある花瓶にも、此家の女主人公の繊細な鋭い趣味が、一々現われているように思われた。

杜絶えたピアノの音は、再び続かなかった。が、その音の主は、なか/\姿を現わさなかった。