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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
五分ばかりも黙っていただろう。父は感に堪えたように、もう黙ってはいられないように云った。
「逸品だ。素晴らしい逸品だ。此間、伊達侯爵家の売立に出た夏珪の『李白観瀑』以上の逸品だ!」
父は熱に浮かされたように云っていた。夏珪の『李白観瀑』は、つい此間行われた伊達家の大売立に九万五千円と云う途方もない高価を附せられた品物だった。
五
「不思議だ! 木下などが、こんな物を持って来る!」父は暫らくの間は魅せられたように、その山水図に対して、立っていた。
「そんなに、此絵がいゝのでございますか。」瑠璃子も、つい父の感激に感染して、こう訊いた。
「いゝとも。徽宗皇帝、梁楷、馬遠、牧渓、それから、この夏珪、みんな北宗画の巨頭なのだ、どんな小幅だって五千円もする。この幅などは、お父様が、今迄見た中での傑作だ。北宗画と云うのは、南宗画とはまた違った、柔かい佳い味のあるものだ。」
父は、名画を見た欣びに、つい明日に迫る一家の窮境を忘れたように、瑠璃子に教えた。
「そうだ。早く木下に知らせてやらなければいけない。贋物だからいくら預っていても、心配ないと思って預かったが、本物だと分ると急に心配になった。