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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
八
その手先には、白い光沢のある金属が鈍い光を放っていた。
「何! 何をするのだ。」と、荘田が、悲鳴とも怒声とも付かぬ声を挙げて、扉の方へタジ/\と二三歩後ずさりした時だった。
直也の父は、狂気のように息子の右の腕に飛び付いた。
「直也! 何をするのだ! 馬鹿な。」
その声は、泣くような叱るような悲鳴に近い声だった。
父の手が、子の右の手に触れた刹那だった。轟然たる響は、室内の人々の耳を劈いた。
その響きに応ずるように、荘田も木下も子爵も「アッ」と、叫んだ。それと同時に、どうと誰かが崩れるように倒れる音がした。帛を裂くような悲鳴が、それに続いて起った。その悲鳴は、荘田の口から洩るゝような、太いあさましい悲鳴とは違っていた。
八
父の手が直也の手に触れた丁度その刹那に、発せられた弾丸は、皮肉にも二十貫に近い荘田の巨躯を避けて、わずかに開かれた扉の隙から、主客の烈しい口論に、父の安否を気遣って、そっと室内をのぞき込んでいた荘田の娘美奈子の、かよわい肉体を貫ぬいたのであった。
荘田は娘の悲鳴を聞くと、自分の身の危さをも忘れて飛び付くように、娘の身体に掩いかゝった。