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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
二
美奈子等の自動車の着くのを、先刻から待ち受けていたかのように、駅の群集の間から、五六人の青年紳士が、自動車から降り立ったばかりの、瑠璃子夫人の周囲を取り囲むのであった。
「お見送りに来たのですよ。」
皆は、口を揃えて云った。
夫人は軽い快い駭きを、顔に表しながら云った。
「おや! 何うして御存じ?」
「はゝゝ、お駭きになったでしょう。お隠しになったって駄目ですよ。我々の諜報局には、奥さんのなさることは、スッカリ判っているのですからね。」
外交官らしい、霜降りのモーニングを着た三十に近い紳士が、冗談半分にそう云った。
「それは驚きましたね、小山さん! 貴君間諜でも使っているのじゃないの? おッほゝゝ。」
夫人も華やかに笑った。
「使っておりますとも。女中さんなんかにも、気を許しちゃいけませんよ。」
「じゃ! 行先も判って?」
「判っていますとも。箱根でしょう。而も、お泊りになる宿屋まで、ちゃんと判っているのです。」
今度は、長髪に黒のアルパカの上着を着て、ボヘミアンネクタイをした、画家らしい男が、そう附け加えた。
「おや! おや! 誰が内通したのかしら?」
夫人は、当惑したらしい、その実は少しも当惑しないらしい表情でそう答えた。