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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

八

が、瑠璃子にはそうではなかった。瑠璃子と、その恋人とを思い知らせるために、悪魔は、瑠璃子を奪って、自分の妻に――名前丈は妻でも、本当はその金力を示すための装飾品に――しようとした。が、瑠璃子の父が、予想以上に激怒したのと、年齢の余りな相違から来る世間の非難とを慮って、自分の名義で買う代りに、息子の名義で買おうとする、瑠璃子を商品と見ている点に於ては、何の相違もない。瑠璃子と彼女の恋人とを思い知らせようとする、蛇のような執念には何の相違もない。正面から飛びかゝって父から、手ひどく跳付けられた悪魔は、今度は横合から、そっと騙かそうと掛っているのだった。

八

瑠璃子には、相手の心が十分に見透かされている。が、相手の本心を知らない父は、その空々しい上部の理由丈に、うか/\と乗せられて、もしや相手の無躾な贈り物を、受け取りはしないかと、瑠璃子はひそかに心を痛めた。縁談などとは別にと、口で美しく云うものゝ、父が相手の差し出す餌にふれた以上、それを機に、否応なしに自分を、浚って行こうとする相手の本心が、彼女には余りに明かであった。

父を何うにか騙して娘を浚って行く、それで娘にも、彼女の恋人にも、苦痛を与えればよいのだと相手が謀んでいるらしいのが、瑠璃子には、余りに判り過ぎているように思えた。