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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

三

瑠璃子夫人の華奢なスラリとした、身体の代りに、其処に十人に近い男性が色々な椅子に、いろいろな姿勢で以って陣取っていた。瑠璃子夫人はと見ると、これらの惑星に囲まれた太陽のように、客間の中央に、女王のような美しさと威厳とを以て、大きい、彼女の身体を埋めてしまいそうな腕椅子に、ゆったりと腰を下していた。

楽しい予想が、滅茶々々になってしまった信一郎は、もし事情が許すならば、一目散に逃げ出したいと思った。が、彼が一足踏み入れた瞬間に、もうみんなの視線は、彼の上に蒐まっていた。

「あゝ、お前もやって来たのだな。」と、云ったような表情が、薄笑いと共に、彼等の顔の上に浮んでいた。信一郎は、そうした表情に依って可なり傷つけられた。

瑠璃子夫人は、遉に目敏く彼を見ると、直ぐ立ち上った。

「あ、よくいらっしゃいました。さあ、どうぞ。お掛け下さいまし。先刻からお待ちしていました。」

そう云いながら、彼女は部屋の中を見廻して、空椅子を見付けると、その空椅子の直ぐ傍にいた学生に、

「あゝ阿部さん一寸その椅子を!」と、云った。

するとその学生は、命令をでも受けたように、

「はい!」