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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
僕は明治時代第一の文豪として一葉を推しますね。」
秋山氏は、如何にも芸術家らしい冷静と力とを以て、昂然とそう云い放った。
信一郎は、もう先刻からじり/\と湧いて来る不愉快さのために、一刻もじっとしてはいられないような心持だった。凡てが不愉快だった。凡てが、癪に触った。樫の棒をでも持って、一座の人間を片ッ端から、殴り付けてやりたいようにいら/\していた。
そうした信一郎の心持を、知ってか知らずにか、夫人は何気ないように微笑しながら、
「渥美さん! しっかり遊ばしませ。大変お旗色が悪いようでございますね。」
二
信一郎が、フラ/\と立ち上るのを見ると、皆は彼が大に論じ始めるのかと思っていた。が、今彼の心には、樋口一葉も尾崎紅葉もなかった。たゞ、瑠璃子夫人に対する――夫人の移り易きこと浮草の如き不信に対する憎みと、恨みとで胸の中が燃え狂っていたのだった。
彼は一刻も早く此席を脱したかった。彼は其処に蒐まっている男性に対しても、激しい憎悪と反感とを感ぜずにはいられなかった。
「奥さん! 僕は失礼します。僕は。」
彼は、感情の激しい渦巻のために、何と挨拶してよいのか分らなかった。