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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

普通にお墓詣りをする人が、こんな雨降りの日に出かけて来る訳はない。そう思って来ると、雨降りにでも行こうと云う自分の心、否お墓詣りと云うことを、ダシに使おうとしている自分の心が、美奈子は急に恥かしくなった。彼女は、われにも非ず顔を赤くした。

「おや! 美奈さん。何がそんなに恥しいの。お墓詣りするのが、そんなに恥しいの?」

明敏な瑠璃子は、美奈子の表情を見逃さなかった。

「あら! そうではありませんわ。」

と、美奈子は周章てゝ、打ち消したが、彼女の素絹のように白い頬は、耳の附根まで赤くなっていた。

五

その次の日曜は、珍らしい快晴だった。洗い出したような紺青色の空に、眩しい夏の太陽が輝かしい光を、一杯に漲らしていた。

美奈子は、朝眼が覚めると、寝床の白いシーツの上に、緑色の窓掩を透して、朝の朗かな光が、戯れているのを見ると、急に幸福な感じで、胸が一杯になった。今日は何だか、楽しい嬉しい出来事に出逢いそうな気がした。彼女は、いそ/\として、床を離れた。

午前中は、いろ/\な事が手に付かなかった。母に勧められて、母のピアノにヴァイオリンを合せたけれども、美奈子は何時になく幾度も幾度も弾き違えた。