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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
その上、平素は、青年も口先丈では、母と一緒に勧めて呉れるのが、その晩に限って、たった一言も勧めて呉れなかった。
「妾、今夜はお友達に手紙を書こうと思っていますの。」
美奈子は、到頭そんな口実を考えた。
「まあ! 手紙なんか、明日の朝書くといゝわ。ね、いらっしゃい。二人丈じゃつまらないのですもの! ねえ、青木さん!」
そう云われて、青年は不服そうに肯いた。青年のそうした表情を見ると、美奈子は何うしても断ろうと決心した。
二
「でも、妾、今晩だけは失礼させて、いたゞきますわ。一人でゆっくり、お手紙をかきたいと思いますの。」
美奈子が、可なり思い切って、断るのを見ると、母はさまでとは、云い兼ねたらしかった。
「じゃ、美奈さんを残して置きましょうか。」
母は青年に相談するように云った。
そう聴いた青年の面に、ある喜悦の表情が、浮んでいるのが、美奈子は気が付かずにはいられなかった。その表情が、美奈子の心を、むごたらしく傷けてしまった。
「じゃ、美奈さん! 一寸行って来ますわ。寂しくない?」
母は、平素のように、優しい母だった。
「いゝえ、大丈夫ですわ。」
口丈は、元気らしく答えたが、彼女の心には、口とは丸切り反対に、大きい大きい寂しさが、暗い翼を拡げて、一杯にわだかまっていたのだ。