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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
三人は、黙ったまゝ園内を、彼方此方と歩いた。誰も口を利かなかった。皆が、舌を封ぜられたかのように、黙々としてたゞ歩き廻っていた。
三人が、少し歩き疲れて、片陰の大きい楢の樹の下の自然石の上に、腰を降した時だった。先刻から一言も、口を利かなかった瑠璃子が、突然青年に向って話し出した。しかも可なり真剣な声で。
「青木さん! 此間のお話ね。」
青年は、瑠璃子が何を云っているのか、丸切り見当が付かないらしかった。
「えっ! えっ!」彼は可なり狼狽したように焦っていた。
「此間のお話ね。」
瑠璃子は、再びそう繰り返した。彼女の言葉には、鋼鉄のような冷たさと堅さがあった。
「此間の話?」
青年は、如何にも腑に落ちないと云ったように、首を傾げた。
丁度その時、美奈子は母と青年との真中に坐っていた。自分を、中央にして、自分を隔てゝ母と青年とが、何だかわだかまりのある話をし始めたので、彼女は可なり当惑した。が、彼女にも母が、一体何を話し出すのか皆目見当が付かなかった。
「お忘れになったの。先夜のお話ですよ。」
瑠璃子の声は、冗談などを少しも意味していないように真面目だった。