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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
「お母様!」
それは、悲鳴だった。
「お母様! お母様!」
美奈子は、つゞけ様に、縋り付くような悲鳴を揚げた。
母の答はなかった。
低い、しぼり出るような悲鳴が、物凄く闇の中に起っているだけだった。
「あ! お母様!」
美奈子は、堪らなくなって、寝台から転び落ちた。
母の寝台は、二尺とは離れていなかった。彼女が、顫える手を、寝台の一端にかけたとき、生あたたかい液体が、彼女の手にベットリと、触れた。
「お母様!」彼女の声は、わな/\と顫えていた。
彼女の手は、母の胸に触れた。母の華奢な肉体が、手の下でかすかにうごめいた。
「お母様! お母様! 何う遊ばしたのです。」彼女は、懸命の声を揚げた。
低い呻き声が、しばらく続いていた。
「お母様! お母様! 気を確になさいませ。」美奈子は、狂ったように叫んだ。
母は、烈しい苦悩の下から、しぼり出すように答えた。
「燈火を! 燈火を!」
傷ける者、死なんとする者が、第一に求めるものは光明だった。
美奈子は立上って電燈を探し求めた。狼狽ている故か、電燈がなか/\手に触れなかった。
が、ようやくスイッチを捻ったとき、明るい光は、痛ましい光景を、マザ/\と照し出した。