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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

七

よく見ると、その時計は、自分の時計に酷似しているのである。自分はそれとなく、一見を願った。自分が、その時計を、大尉の頑丈な手首から、取り外した時の駭きは、何んなであったろう。若し、大尉が其処に居合せなかったら、自分は思わず叫声を挙げたに違ない。自分が、それを持っている手は思わず、顫えたのである。

自分は急き込んで訊いた。

「これは、何処からお買いになったのです。」

「いや、買ったのではありません。ある人から貰ったのです。」

大尉の答は、憎々しいほど、落着いていた。しかも、その落着の中に、得意の色がアリ/\と見えているではないか。

七

――その時計は、自分の時計と、寸分違ってはいなかった。象眼の模様から、鏤めてあるダイヤモンドの大きさまで。それは、彼女に取ってかけ替のない、たった一つの時計ではなかったのか。自分は自分の手中にある大尉の時計を、庭の敷石に、叩き付けてやりたいほど興奮した。が、大尉は自分の興奮などには気の付かないように、

「何うです。仲々奇抜な意匠でしょう。一寸類のない品物でしょう。」と、その男性的な顔に得意な微笑を続けていた。自分は、自分の右の手首に入れているそれと、寸分違わぬ時計を、大尉の眼に突き付けて大尉の誇を叩き潰してやりたかった。