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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
三方子川の下流は、まるで水郷のおもかげ……。
鳴きかわす鶏の声で、夜が明けてみると、あちこちに藁葺きの家が三軒、四軒。
渡しの船頭や、川魚をとる漁師の住いだ。
その一つ――。
前の庭には網をほし、背戸口から裏にかけては畑がつくってあろうという、半農半漁の檐かたむいた草屋根です。
「どうじゃな、お客人。気がつかれましたかな」
火のない炉ばたに大あぐらをかいて、鉈豆煙管でパクリ、パクリ、のんきにむらさきのけむりをあげていたこの家の主人、漁師体のおやじが、そう大声に言って、二間きりないその奥の部屋をふりかえった。
「ウウむ……」
とその座敷に、うめき声がわいて、
「オオ! ここはどこだ!」
誰やら起きあがったようす。おやじはのそりと立って行って、奥の間をのぞく。不愛想だが、人のよさそうな、親切らしい老人だ。
「ウム、どうじゃな、気分は」
すると……。
ふしぎなこともあるものです。床の上にけげんな顔をしてすわっているのは、丹下左膳――この漁師の家で着せられたらしい、継ぎはぎだらけのゆかたを着て、一眼を空に見はり、ひとりごと。
「あの川床の天井が落ちて、ドッと落ちこむ水にあおられ、運よく穴から川面へ浮きあがったまではおぼえているが――」