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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

二

試合を、のがれるすべはありません。

蒼白に顔色を変えて、

「大先生のお立ちあいとは、身にあまる光栄――」

と言ったが、よほど身にあまるとみえて、全身ががたがたふるえている。

二

猫と鼠……では、鼠は猫の敵でないにきまっている。

だが、しかし。

別の場合もあるので――世の中には、窮鼠かえって猫を噛むという言葉もある。

いまがその例のひとつ。

ちょっくらちょっとあるまいと、源三郎以上に剣腕の立つ人を立ちあいに……と、こっちが申し出たのに対して、望みどおりに、剣の上でも兄者人たる柳生対馬守が、判定者!

もう、のっぴきならない。

と思うと同時に、峰丹波、今までふるえおののいていた鼠が、窮鼠になった。

どうせ助からない命!

ときまっている以上、すこしはパッと十方不知火流の精華を発揮して……やっと武士らしい気持に立ちもどった。

のみならず。

うしろには、おのが弟子ともいうべき不知火流の門弟どもが、固唾をのんでひかえているのですから、ここは丹波、いやでも死に花を咲かすよりほかない。

人間、死ぬ覚悟ができると、別人になる。

もろもろの物欲我執にとらわれていたのが、このごろの夕立のようにスッパリと洗い落とされて、一時に開くのです、心の眼が。