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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

猫と鼠

一

うしろに。

でっぷりした中年の侍が、威儀をただして立っている。

象のような細い柔和な眼、抜けあがった額部。両手をうしろにまわして、悠然たる殿様ぶり……。

大刀をささげたお子供小姓をしたがえ、小刀を前半にたばさんだ――柳生藩江戸家老、田丸主水正。

「兄でござる。兄、柳生対馬守……」

源三郎が、まじめくさった顔で、丹波に紹介わせた。

そして、主水正へ、

「兄上、これなる御仁が当不知火道場の師範代――というよりも、ながらく拙者のじゃまをしてこられた、峰丹波どの……」

むろん名前は、日本国じゅう、いかずちのごとくとどろきわたっている伊賀の殿様だが、峰丹波、まだ眼通りを得たことがない。

対馬守のお顔は、知らないんです。

で、換え玉などとは、もとより思うわけもなく。

ギョッとすると同時に、丹波はくずれるように、土に小膝をつきかけた。

「ヤ? これは大先生にござりまするか。そうとも存ぜず、かかる異様のいでたちにてまかりいで……」

あわてて、袴の股立ちをおろそうとした。

「お見ぐるしき段、ひとえに御容赦を――手前は、ただいま源三郎様よりお言葉のありましたる、峰丹波と申する未熟者……」