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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
三
舌が動かないのです。口がきけない。それでも、先ごろまでは耳はまだ達者で、こっちの言うことだけは通じたのですが、今ではもう耳もだめになったらしく、何を言ってもニコニコしているばかりです。
眼だけだ、残っているのは。
対馬守は、静かに硯箱を引きよせ、巻紙をひろげて、サラサラと一筆したためました。
「宗匠に借問す。こけ猿と称する偽物、江戸に数多く現われおる由、ほんものを見わくる目印、これなきものにや」
すり寄って、対馬守の手もとをのぞいていた一風宗匠は、コックリとうなずいて、両手を差し出した。
その筆と紙をこっちへ……というこころ。
三
やっとのことで一風の左手に、巻紙を握らせた対馬守は、その、木の根のような右手へ、墨をたっぷり含ませた筆を持たせると。
こまかくふるえる手で、宗匠の筆が左のような文字を、したためはじめた。
燭台を手もとに引き寄せて、対馬守は横あいから、異様に燃える眼でその筆先をみつめる。壺の真偽を判別する鍵が、今ここで明らかにされるのですから、対馬守、思わず真剣になった。
大きくおどるような、読みにくい文字です。
「偽物いかに現わるるとも、急所をきわむれば、鑑別のこといと容易なり。