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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

九

「サア、これへ乗っておやりなせえ、声がよく通るだろう」

石金はその芥箱のうえに立ちあがって、

「オイ、その大恩人の泰軒先生が、いま眼の色を変えて、向島のほうへすっとんでいらしった」

と、演説をはじめた。

期せずして、深夜の長屋会議の光景を呈している。

「この間まで、作爺さんの隣家に住んで、おれ達の仲間だったチョビ安が、先生を迎えに来たのだ。なにやらただならぬ出来事らしいことは、チラと見た先生の顔つきで、おらア察したんだ。先生と安の話から、渋江村の司馬寮の焼け跡というのを小耳にはさんだが、そこに何ごとかあって、先生はとんでいったものとみえる。おめえらも、トンガリ長屋と江戸にきこえた連中なら、よもや先生を見殺しにゃアしめえナ」

九

真夜中の住民大会。

塵埃箱の上に立ちあがった委員長石金さんの舌端、まさに火を発して、

「おれたちがこうしていられるのも、泰軒先生のおかげだと思やあ、これから押しだしていって、先生に加勢をするのに、誰一人異存のある者はあるめえ」

ワーッとわいた群衆の叫びのなかに、奇声で有名なガラッ熊のたんかがひびいて、「ヤイ、石金のもうろく親爺め、オタンチンのげじげじ野郎め、わらじの裏みてえなつらアしやがって、きいたふうのことをぬかすねえ」