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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

八

もう……だめだ! すべては終わった!」

とお蓮様は、蒼白い唇でつぶやいた。

それきりそこの縁の柱にもたれかかって、襟に顎をうずめて考えこんでいる彼女――侍女の一人が、夕飯の迎いに来ても、首を振ってしりぞけたまま。

八

夕餉の膳部もしりぞけて、庭の面に漆黒の闇が満ちわたるまで、お蓮様はしょんぼり、縁の柱によりかかって考えこんでいたが――。

道場乗っ取りの策動も、もはやこれまで。

萩乃まで源三郎の手に取られてしまっては、もう自分のとる手段はどこにもない……。

失意。

身をはかなむ気持、無情の感が、時ならぬ木枯しのように胸深くくいいってくる。

どこにすがろう? いずこにこの心の慰めを求めよう――? そのとたん、人間たれしも思い浮かぶのは、肉親の情だ。

「ああ、ほんとうだ。こういうとき、あの児さえ手もとにいてくれたら、わたしは何もいらない。道場も、恋も――世の中のいっさいは、子供の愛にくらべたら、なんでもありはしないわ」

お蓮様がこんな気を起こすとは、よっぽど心が弱ったものと言わなければなりません。

外見は女菩薩、内心女夜叉に、突如湧いた仏ごころ。

お蓮様には、たった一人の子供があるのです。