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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

五

チョビ安が口をはさんで、

「ねえ、作爺ちゃん! お爺ちゃんは、ただのお爺ちゃんだよねえ。ただの、トンガリ長屋のお爺ちゃんで、そんな人じゃアないよねえ」

「ウム、そうじゃとも! ただの作爺さんだとも!」

と作阿弥は、ニッコリうち笑み、

「田丸殿……と申されましたな。やっぱり拙者は、お聞きのとおり、ただの、このトンガリ長屋の作爺じゃ。そのほうが無事らしい。せっかくのお申し出でながら、この儀は、かたくおことわりするほかはござるまい。わしには、もう、鑿を持てぬ……」

「その、ある筋とは?」

と、泰軒が主水正にきいていた。

五

「大岡越前守殿……」

と田丸主水正は、ソッとうち明けるように、早口につぶやいた。

南町奉行大岡越前守が、このトンガリ長屋の作爺さんこそ稀代の名手、作阿弥であることを、そっと柳生家へ知らせてくれたというのである。

聞く蒲生泰軒の眼が、チカリと光った。

「ウム、彼なれば早耳地獄耳、江戸の屋根の下の出来ごとは、一から十まで心得ているにふしぎはない。そうか、越州から知らせがあったのか」

ひとりごとのような泰軒の言葉。

が、どうして忠相が、この作爺さんの前身を知っていたか、また、それをいかにして柳生へ通じたか、くわしいことはわからないけれど。