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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

三

子供心にも、恋人気どりのお美夜ちゃんには、ひと足さきに母親が名乗りでて、しかも、二人いっしょにこれも日光へ。

残った泰軒先生は、ガブガブ酒を飲みながら、毎日幾件となく持ちこんでくる、江戸じゅうの巷の人事相談に応じているばかり。チョビ安の「親をたずねる人事相談」にだけは、このさすがの泰軒先生も、手も足も出ない形。

ところが、今宵、めずらしくこの家に客があるのです。

しきりに、しんみりとした話し声。

三

まだ宵の口を、ちょっとまわったばかりのころ。

「では、大作、そのほうはここで待っておれ」

そう言いすてて、このトンガリ長屋のあぶなっかしいどぶ板を踏んではいって行ったのは……。

お忍びらしい覆面、無紋の着流しに恰幅のいいからだをつつんだ武士だ。いかにも、大身らしいようす。

路地の入口に残された伊吹大作――南町奉行大岡越前守手付き……が、きっとあたりに気を配りながら、そっと上眼づかいに、その後ろ姿を見送っているところから見ると、この覆面の侍は、よほど大作の上役……ないしは主筋に当たる人らしい。

軒なみに、長屋の一軒一軒をのぞきながら、進んでゆくその無紋着流しの侍は、やがて、路地の中ほど、作爺さんの家の前まで来ると、そっと忍びやかに格子をあけて、