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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

五

また耳の聞こえないのを忘れて、大声に叱咤しながら、グイと宗匠の眼のさきへ壺を見せた。なんのことはない、柳生一刀流正眼の構え。

声は聞こえなくても、さすがに宗匠、この意味はわかったとみえる。今まで眠っていたような眼が、見るみるうちにいきいきした光を添えたかと思うと。

二秒、三秒、じッと壺の一箇所をみつめていたが――。

「――――」

だまって首をふりました。

こけ猿ではない、と言う。

「エーイッ、そうだろうと思ったッ!」

叫びざま対馬守、治太夫の頭を目がけてはっしとばかり、壺を投げつけたが、治太夫も相当なもの。日光修理が近づくにつれ、いらだつ殿の癇癪は毎度のことで、慣れている。

ハッと首をすくめたから、壺は雨戸へあたって大音響とともに微塵にくだけ散った。

五

同時に対馬守は、すっくと起ちあがって、足ばやに一風の部屋を出かかったが、そのとき、廊下のむこうから儀作を先頭に、二、三人の侍が急ぎ足に――

ハッと殿の足もとに、小膝をついた儀作が、

「残念でござりますが、ふたたびとり逃がしましてござります。なんとも、足の早い男で」

「捨てておけ、さような下郎は……コレッ、皆の者よく聞け。