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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
母娘旅同行二人
一
「それでは、通りがかりの旅人をひっとらえて、人柱に塗りこめるよりほかみちがあるまい。主水! そちに一任いたす。鹿沼新田の関所に出張って、しかるべき母と子の旅の者を物色いたせ。極秘にナ――ぬかるまいぞ!」
母娘旅同行二人
一
「オウ、そこに立ってるのはお美夜ちゃんじゃアねえか」
こう声をかけたのは、片肌ぬぎに柄杓をさげた石屋の金さんだ。
このトンガリ長屋の入口に住んでいる人で。
今、この夕方、路地のまえに遣り水と洒落ていたところ……。
「おめえ、うすっ暗えところにボンヤリ立ってるから、ちっとも気がつかなかった。オオオオ、足へ水をかけてしまったが、まっぴらごめんなヨ」
石金さんはそう言いながら、片手にさげた柄杓のしずくを切って、お美夜ちゃんのそばへ寄っていった。
あわい夢のような、紫のたそがれのなかに、白い大輪の夕顔とも見えるお美夜ちゃんの顔が、ボンヤリ浮かんでいます。
暑かった江戸の一日も終わって、この貧しいとんがり長屋にも、自然はすこしの偏頗もなく、日暮れともなれば、涼しい夕風を吹き送るのでした。
何はなくとも、路地口のへちまの棚、近くの竜泉寺の椎の梢に、雨とひびくひぐらしの声。