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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

三

萩乃と源三郎のことを思うと、弱いお露が、ぐっと嫉妬で強くなった。スタスタと門をくぐって、数奇をきわめた植えこみのあいだを、奥のほうへ――。

もうとうに朝飯のすんだ時刻。

ほがらかな陽が、庭木いっぱいに黄金の雨のように降りそそいで、その下を急ぐお露の肩に、白と黒の斑を躍らす。

さいわい誰にも見とがめられずに、奥座敷の縁側のそばまで来たお露は、沓ぬぎにうずくまるように身をかがめて、低声。

「あの、モシ、どなたかおいでではございませんでしょうか」

「アア、びっくりした!」

座敷の真ん中に、大の字なりに寝ころんでいた谷大八が、ムックリ起きあがった。

三

ものを言うたびに、首を振る。すると、大髻がガクガクゆらぐ。

これが、谷大八の癖だ。

「なんだ、娘。貴様はどこからまいった」

「アノ、わたくしは、葛飾の三方子川尻の六兵衛と申す漁師の娘で、お露という者でございますが――」

「ナニ、漁師の娘? それが何しにここへ……誰がここへ通した。門番へことわってきたのか」

「いえ、ただスルリとはいってまいりましたが――アノ、お侍様たいへんなことができましてございます。源三郎様のところへ、昨晩こちらのお嬢様が逃げていらっしゃいまして」