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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

二

「これは、どうも。よい風が吹きますなあ。そのお腰かけの端のほうを、あっしにも拝借させていただきやしょう」

口のうまいやつで、そんなことを言いながら、

「あれが安房上総の山々、イヤ、絵にかいたような景色とは、このことでしょうナ。海てエものは、いつ見ても気持のいいもので」

一人でしゃべりちらして、海にみとれるふう……かたわらにある儀作の飲みかけの茶碗をとって、口に持ってゆこうとする。儀作がおどろいて、

「ああもしもし、それは私の茶碗だが――」

「オヤ! そうでしたね。イヤ、これはとんだ粗忽を。だがね、あなた様のお飲みかけなら、あっしは、ちっともきたないとは思いません。イエ、お流れをちょうだいいたしたいくらいのもので」

「何をつまらんことを言いなさる。ソレ、お前さんの茶碗は、ここにあるよ」

二

「なるほど、あらそわれねえものだ。あっしの茶碗は、ちゃんとここにあらアヘヘヘヘ」

なんかと与の公、何があらそわれねえものなのか……しきりに感心している。

ガブリとひとつ茶を飲んで、何やかや一人で弁じだした。

口前ひとつで人にとりいることは、天才といっていいほどの鼓の与吉。

武家奉公で世間もせまく、年も若い儀作は、これが機会となって、うまうままるめこまれたと見える。