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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

三

こうなると、名代の柳生一刀流も、こうした下っぱになると、からきしだらしのないものとみえます。

あと見送って含み笑いをした左膳が、血のしたたる濡れ燕をソッと地面に突き立てて、駕龍のそばにしがみ寄り、引き戸に手をかけたとたん、駕籠の中から、

「相変わらずだね、丹下の殿様、おひさしぶり、ホホホホホ――声でわかりましたよ」

三

声でわかりましたよ……という女の言葉が、駕籠の中から。

左膳が、ギョッとして身を引いた瞬間。

引き戸がなかからあけられて、闇に咲く大輪の花のようにたち現われたのは、御殿女中姿の櫛巻の姐御……あっけにとられた左膳の肩を、ポンとたたいて、

「まあ! 今までどこにどうして――会いたかったわ」

と寄りそった。夜中にこっそり駕籠を急がせて来るのだから、テッキリこけ猿の壺……に相違ないと思ったのに、あらわれたのは意外にも女! しかも、駒形の尺取横町に残してきたはずのお藤が、こうした変わった風体で、柳生家の駕籠に乗っていようとは!

おもしろくもないといった顔、不愉快そうに濡れ燕を鞘へ納めた左膳は、

「おめえか……えらく出世をしたものだなア、どういういきさつで、そんな身分になったのか知らねえが、おらあおめえには用はねえのだ。