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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

五

うしろのほうから、人のくずれたつ騒ぎが伝わってきても、はじめは、それほどの大事とは思わなかった。

「たいせつの御用だ。喧嘩はひかえろッ、ひかえろッ!」

同士打ちと思ったのです。

二、三人の若侍を引き連れて、砂をまき上げてしんがりのほうへかけかえってみると、すでに五、六人の供の者が、浪打ちぎわや松の根もとに、あるいはうずくまり、あるいはのたうちまわって、浅黄色のぶっさき羽織を着た一人などは、あわてふためいて海のほうへかけだして倒れたらしく、遠浅のなぎさにのけぞった彼の死骸。

その平和な死顔を、駿河湾の浪が静かになでている。

「竹田氏、竹田氏ッ! さきほどの痩せ浪人ですッ!」

「イヤ、おどろきいった腕前、またたくうちにこのありさま」

「かような手ききは、見たことも聞いたこともない」

と一同、口をそろえてわめきたてたが――それはそうだろう、おどろくほうがどうかしている、何しろ相手は、丹下左膳だもの。

が、こうなっても竹田は、自分が今、この千本松原でいのちを落とすことになろうとは、夢にも思いません。

思わないから、えらい元気で、剣輪のなかの左膳をどなりつけました。