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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
また。
あるおそろしく足の早い人は、胸へ紙一枚当てて歩いて、けっして落ちなかったという。
そうかと思うと、ある人の通り過ぎたあとには、あまりの勢いに空気が渦をまいて、屋根瓦が舞いあがるやら……そんなのは当てにならない。
林念寺のお上屋敷をあとにした柳生家の若党儀作、たった一人で、伊賀の国をさして江戸を出はずれました。
妙な荷物をかついでいる。
例の松の木にぶらさがっていた贋のこけ猿を、ぐるぐるッと風呂敷包みにして、ヒョイと背中へはすかいに――。
この壺の一伍一什を知らせに走るのだから、証拠物件としてしょって来たのだ。
同時に。
壺の騒ぎを知る人に対しては、こけ猿ここにあり、という宣伝にもなる、が、何も御存じない連中には、大きな茶壺をしょって粋狂な! としか見えません。
品川から大森の海辺へかけては、海苔をつけるための粗朶が、ズーッと垣根のように植えられています。名物ですなア。
これが、江戸の江戸らしいものと別れる最後。
急ぎの旅だから、いい景色も眼にはいりません。六郷の水は、ゆるやかに流れて、広い河口のあたり、蘆のあいだに上下する白帆が隠見する。