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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

声とともにその鎧櫃の中から、スックと立ち上がった白衣の異相を眼にしたときには、傲岸奸略、人を人とも思わない丹波も、ア、ア、アと言ったきり、咽喉がひきつりました。

大髻の乱れ髪が、蒼白い額部に深い影を作り、ゲッソリ痩せた頬。オオ! その右の頬に、眉のなかばから口尻へかけて、毛虫のはっているような一線の疵跡……しかもその右の眼は、まるで牡蠣の剥身のように白くつぶれているではないか!――ひさしぶりに丹下左膳。

道場いっぱいに、騒然とどよめきわたったのは、ほんの一、二秒。さながら何か大きな手で制したように、シンとしずまりかえったなかで、左膳、からっぽの右の袖をダラリと振った。枯れ木に白い着物をかぶせたようなからだが、ゆらゆらとゆらいだ。笑ったのだ、声なき笑いを。

「出口入口の締りをしろ! 今夜てエ今夜こそは、一人残らず、不知火燃ゆる西の海へ……イヤ、十万億土へ送りこんでくれるからナ」

ケタケタと響くような、一種異様な笑い声をたてた左膳は、細いすねに女物の長襦袢をからませて、鎧櫃をまたいで出た。

「サ、サ、したくをしねえか、したくをヨ! こ、この濡れ燕はナ、手前たちのなまあったけえ血に濡れてえといって、さっきから羽搏きをしてきかねえのだ。