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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「ハイ……」

「サア、お起ちなせえ。すこし遠いが、おいらが案内役だ。こう来なせえよ」

バタバタと裾の土をはらって、立ちあがった萩乃、左膳にしたがってその空地を出ようとすると!

「うぬ、あの化けもの。侍、いずくへまいった」

「ソレ、とりにがしてはならぬぞ」

「ナニ、拙者が見つけて、一刀両断に――」

提灯の灯といっしょに、司馬道場の若侍の声々が、妻恋坂をすっとんでゆく。大丈夫もうそこらにいないと見きわめをつけたうえで、いばっているんだから世話はない。

その連中の通り過ぎるの待って、左膳は萩乃をつれて、妻恋坂をあとにしました。折りよく通りがかったのは、二丁の空駕籠。左膳と萩乃と二人の姿は、その駕籠にのまれたが――。

ゆく手は?

ちょうど、この同じ時刻。

話はここで、この二丁駕籠の先まわりをして……三方子川の下流です。

川釣りの漁師、六兵衛の住居。

奥の六畳……といっても、ふすまはすすけ、障子は破れ、柱などは鰹節のように真っ黒な――真ん中に、垢じみた薄い夜具を着て、まだ病の枕から頭があがらずにいるのは、柳生源三郎でございます。

伊賀の暴れン坊の面影は、今この、病む人の身辺に、わずかに残っているにすぎない。