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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「こ、これ、あなたもいっしょに、左膳を止めてください」

と源三郎は、萩乃へ、

「私があぶないところを助かったのは、みなこの左膳のおかげだ。穴の底から三方子川へ浮かびあがることのできたのも、また、この家のあるじ漁師六兵衛に救われたのも、みんな左膳がいたればこそだ。萩乃、こころから左膳に礼を言ってくれ」

萩乃は、あらたまって左膳の前に両手をつき、

「なにから何まで、ほんとうにありがとうございました。源三郎様のことといい、今夜のことといい、御恩は生涯忘れはいたしません」

その、身も世もなくよろこばしそうなようすを、左膳はしばらくじっと見おろしていたが、

「イヤ、萩乃さん、あんたにそう言われただけで、おれは、このうえの満足はない。無事な源三の顔が見られて、うれしいだろうなア萩乃さん」

「ハ、はい……」

「ははははは、そうだろうなあ。大事にしてあげなさいよ。源三、行くぜ」

「さ、さ、左膳。ド、どこへゆく?」

「どこへ? それはおれにもわからぬ。この腰の濡れ燕にきいてくれ」

五

夜明けの一刻前……。

闇黒がひときわ濃いときがあるといいます。明け方の闇は、夜中の闇よりもいっそう深沈として――その暁闇につつまれた左膳、源三郎、萩乃の三人は、それぞれの立場で、凝然と考えこんだままだ。