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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

とっさの機転のきくやつで、背中に壺のつつみを引っしょって走るのは、追いすがりざまに斬られるときの、これが用心で。

楯を背中にしている気だ。

真昼近い神奈川宿の出はずれ。一方は雑木林の山で、いまの今まで鳴き連れていた名も知れない鳥の群れが、この時ならぬ人の気配にびっくりしたものか、ハタと音をしずめて、明るい深夜のようなものすごさだ。

反対側は崖です。下には、段々畑がひろがって、遠くにお百姓の使う鍬が、ときどきキラリと眼を射る。

あっけにとられたのは、若党儀作でした。

調子のいいことを言って、壺をかついであとについてきていた、そのいなせな若い者が、拍子を見てだしぬけにかけぬけて、ドンドンスッとんでゆくんですから、アレヨアレヨと言うひまもない。人間、あんまりおどろくと、即座にからだが動かないものだ。火事のときなどそうです。人がたちさわぐのに、ただひとりボンヤリ立って、ニヤニヤ笑っている人などがある。

あとで皆が感心して、

「どうもあの人は、偉い。いかにも落ちついたものだて。あのおめえ、となりから火が出たという騒ぎのなかに、口もきかねえで、キッと立っているなんてエことは、ちっとやそっとの度胸ではできることじゃアねえやナ」