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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

今夜はお大名のおとまりがあるとかで、宿中なんとなくざわめいているから、片側に道をよけて通りながら、ヒョイと見ますと、

昔は殿様のお宿には、大きな立て札を出したもので――墨痕おどる一行の文字は、柳生対馬守御宿。

眼をこすった儀作、めざす国もとの殿様が、先知らせもなく江戸へのぼって来る途中、もうここまでおいでになっているとは……知らなかった、知らなかった――。

言いようのない不覚をとった以上、伊賀へ帰れば、斬られる。といって、このままおめおめ江戸へ引っかえせば、やっぱり主人主水正が、ただはおくまい。

どうせあの壺とかけかえに、消える命ときまっているなら、今ここで、藩主の御一行に出あったのをさいわい、はやくかたをつけて――と。

やけ半分のこういう覚悟だから若侍の案内で、恐る恐る対馬守の前へ出てきた儀作。髪は乱れ、衣紋はくずれ、眼が血ばしって、口を引きむすんで、相が変わっている。お側の侍二、三人は、思わず膝を浮かせて、

「田丸様の若党と申したな。しかとそれに相違ないか」

刺客とにらんだのかもしれない。

儀作、それに答える余裕などはありません。もうこわいのも忘れて、いきなり藩主の前にすすみ、バタリと両手をついて平伏しながら、