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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
叫びながら、人をかきわけて飛びこんできたお兼婆さん、いきなり泰軒先生の手をとって、遮二無二引きたてた。
大は、まず小より始める。
富士の山も、ふもとの一歩から登りはじめる……という言葉がある。
日本の世直しのためには、まずこの江戸の人心から改めねばならぬ。
それには、第一に、この身辺のとんがり長屋の人気を、美しいものにしなければならない。
と、そう思いたった泰軒先生。
乞われるままに、長屋の人々の身の上相談にのっているうちに、いつしか、毎夜こうして、先生が居候をきめこんでいるこの作爺さんの家には、とんがり長屋の連中が、煩悶、不平、争論の大小すべてを持ちこんできて、押すな押すなのにぎやかさ。
嫁と姑の喧嘩から、旅立ちの相談、恋の悩み、金儲けの方法、良人にすてられた女房の嘆き……いっさいがっさい。
それをまた泰軒先生、片っぱしから道を説いて、解決してやるのだった。
まるで、この人事相談が蒲生泰軒の職業のようになってしまったが、むろん代金をとるわけではない。
だが。
淳朴な長屋の人達は、先生に御厄介をかけているというので、芋が煮えたといっては持ってくるし継ぎはぎだらけのどてらを仕立ててささげてくる者もあれば……早い話が、泰軒先生にはつきものの例の貧乏徳利だ。