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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

御当家に伝わるこけ猿の壺には……」

一風宗匠の筆が、そこまで動いたとたん!

大勢あわただしい跫音が、殿様をさがすように長廊下を近づいてきて、

「殿! こちらでござりますか」

かんじんのところへ心ない邪魔が……対馬守は声をあらげて、障子そとの廊下へ、

「治太夫か。何じゃ、そうぞうしい! いま宗匠と重要な筆談をかわしておる。さがっておれッ」

治太夫と呼ばれた侍の声で、

「いえ、殿。至急お耳にいれねばならぬことが――」

「エエイッ、さがれと申すに。そっちよりこっちがたいせつじゃワ――宗匠、そのさきはどうした」

と対馬守、必死に一風に書きつづけるようにうながしますが、老宗匠の筆は、そこでハタと止まってしまって、キョトンとした顔をあげている。

気がついた対馬守、

「オオ、そうじゃったナ。いかに大声を出しても、言葉は通ぜぬのじゃったな。エイッ、世話のやける老人じゃ」

「殿、殿! 火急の儀にござりますれば……殿、殿ッ!」

「うるさいッ! このほうがよっぽど火急じゃッ」

と癇癪を起こした対馬守、いきなり宗匠の手から筆を引ったくって、ドブリと墨をつけるがはやいか、膝先の畳の上へ、手習いのような文字を書いた。