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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

同時に左膳、びっくりするような大きなあくびをした。

「ああウあ! そうだ、思い出したぞ。丸に一の字引きは、石川家だな。うむ、石川左近将監……」

左膳があくびをするのは、鬱勃たる剣魔の殺情が、こみあげてくるときで。

ところが、相手は、そんな危険な人物とはすこしも知らないから、

「狂人のくせに何を申す。たたッ斬ってしまうぞ!」

一刀のもとに……と思ったのでしょう、いきおいこんで真っ正面から、打ちおろした。

が! ふしぎ! 左膳はいつ抜いたのか、そして、いつ斬ったのか、ただ左手をこともなく左へはらったように見えたのだが、もう、腰の濡れ燕は鞘だけ。その鞘もとに、細長い三角形の穴が黒々とあいて、、刀身はすでに、左膳の片手にブランと持たれている。

それよりも。

その濡れ燕から一筋の赤い血潮が、斬尖を伝わって白い砂に、吸われる、吸われる。

どうしたのだろう!……と見れば、色の黒い、口の大きな侍、腹を巻きこんで砂にすわったまま、動かない。一太刀に胴をえぐられたのだ。

「おい! 返せ、返せ。狼藉者だッ!」

ぶっさき羽織が、さきへゆく行列へ呼ばわった。

五

長い行列の先頭に立っていた竹田なにがし。