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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
「不所存者めがッ! 石川様のお壺行列へ斬りこむとは、いのち知らずの大たわけめ、そこ動くなッ!」
動くななんて言わなくたって、壺を手にしない以上、左膳のほうこそ、金輪際動く気はない。
数十人の石川家家臣に取りまかれた丹下左膳は、柄もとまで血によごれた濡れ燕を、左手にぶらさげて、眠ったようにたっている。
胸がはだけ、裾はみだれて、女もののはでな長襦袢に、さわやかな潮風が吹く。
いつのまにかはだしになり、脱いだ草履を裏あわせに、帯の横ちょへはさんで、今にもくずれそうにヒョロッとつっ立っているんですから、姿は無気味だが、見たところ、とても弱そう……。
つい今しがた、これらの人間を斬り捨てた左膳の働きを、もし竹田が見ていたら、もうすこし警戒もし、また他に取るべき手段もあったでしょうが、何しろ行列の先頭にいて、知らないんです。左膳の左膳たるところを。
倒れている仲間は、あわてすぎて、たがいの剣がふれたのだろう、ぐらいに考えた竹田某は、
「竹田殿ッ、御用心なさらぬと……」
などと注意する声を背中に聞いて、いきなり抜刀をひっさげ、ツカツカと左膳の前へ出かけて行った。