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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
雲をかすみ。
みごとな黒塗りのお駕籠が、砂にまみれてころがっている。
走り寄った左膳は、ニッコリ顔をゆがめながら――これがほんとうの思う壺だ。
手の濡れ燕をもって、バリバリッと駕籠の引き戸を斬り破り、錦の袋につつまれた茶壺を、刀の先に引っかけてとりだした。
石川左近将監自慢の、呂宋古渡りのお茶壺です。
濡れ燕を砂に突き立てた左膳。
ひとつきりの左手と、歯を使って、袋の結び目をといてみた。出てきたのは、朱紐で編んだスガリをかけた、なるほど茶壺には相違ないが、目ざすこけ猿とは似ても似つかない。
が、左膳はべつに失望もいたしません。
これがこけ猿の茶壺でないことは、はじめからわかっている。
こうやって、宇治の茶匠のあいだを往来する大名の壺を、かたっぱしからおそっているうちには、どういうはずみでか、何者かの手にはいった真のこけ猿に出会わないともかぎらない。こういう左膳の肚ですから、なんでもいい、壺とさえ見れば掠奪するのだ。
今日はその第一着手。
煮しめたような博多の帯に、左膳、矢立をさしている。
それを抜き取って、つぎに懐中から、懐紙を二つに折った横綴の帳面を取りだした。