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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「いつもながら上様のおこころ配り、行きとどいたものじゃ。ありがたいかぎりじゃテ」

苦笑を浮かべてつぶやいた対馬守は、やがて、声をひそめて、

「そこで田丸、真のこけ猿じゃが――まだわからぬかの?」

「は、なにぶんどうも、偽物ばかり現われまして……いつどこで紛れて、何者の手に入りましたやら、とんと行方知れずにあいなり、まことに遺憾至極ながら、手前、勘考いたしまするに、こけ猿なるものは、もはや世にないのではないかと……」

「なに、もはや世にない?」

眼を怒らせた対馬守が、老家老を睨めつけたとき、

「オヤ、殿様、こちらでしたか。あら、このお爺さんは?」

伝法な女の声が、横手のふすまをあけて、このお上屋敷の主従対座の席へはいってきた。

人を人とも思わない言葉に、主水正がびっくりして見あげると、櫛巻お藤!……ということは、もとより田丸主水正は知らない。

椎たけ髱にお掻取り、玉虫色の口紅で、すっかり対馬守お側つきの奥女中の服装をしているが、言語つきや態度は、持ってうまれた尺取り横町のお藤姐御だ。

それが、くわえ楊枝でぶらりとはいってきて、殿様の横へべったりすわったんですから――いかさま妙な取りあわせ。