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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「代は今やる。ちょっと待ってくんねえ」

例によって大人びた幼声は、まぎれもないチョビ安。

とんぼ頭を垂れからのぞかせて、駕籠を出るが早いか、眼ざとく路地の泰軒先生を見つけたとみえて、

「オウ、お美夜ちゃんとこの居候じゃアねえか」

バタバタかけよって、

「オイ、イソ的の小父さん、駕籠賃をはらってくんな。酒代もたんまりやってな」

と呼吸をはずませている。

泰軒先生は、星の輝く夜空を仰いで、わらった。

「ワッハッハ、子供か大人かわからねえやつ……貴様は、あの丹下左膳の小姓であったナ」

「ウム、その父上左膳のことで来たんだ。とにかく居候の小父ちゃん、銭を出して、あの駕籠屋をけえしてくんなよ」

だが、それはむりで、泰軒先生にお金があれば、左膳に右手がある。

しかし、血相を変えているチョビ安のようすが、ただごとでないので、泰軒先生の一声に応じ、長屋の誰かれが小銭を出しあって、チョビ安の駕籠賃をはらってやった。

この駕籠は。

チョビ安、さきごろからこのお美夜ちゃんの家にいる泰軒先生を思い出して、この場合、その助力を借りようと思いたつが早いか、あの司馬寮の焼け跡から、通りかかった辻駕籠をひろい、一散にとばしてきたもので。