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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
あの騒ぎなどは、お蓮様の心のどこにもないのだった。それはみんな自分になんの関係もない、遠い国の、しかも、大昔の出来ごととしか思えないほど、彼女の胸は、源三郎に対する悔恨でいっぱいなのだ。
「ああ、もうなんの欲も得もない。源様さえ生きていてくだすったら……」
司馬道場、峰丹波、それらへの興味はすっかりなくなって、この頃のお蓮様は、まるで別人のように、うち沈んでいるのである。
萩乃なぞ、あの片腕の浪人にひっさらわれて、どんな目にでもあうがいい。
今も今。
無意識にそうひとり言を口にしながら、お蓮様が、きっと、血の気のない唇をかみしめたときです。
故十方斎先生は、此室で皆伝の秘密の口述をしたもので、大廊下からわかれてこっちへ通ずる小廊下の床が、鶯張りになっている。踏むと音がするんです。
忍んで来ることができない。盗み聞きは不可能。
今そのうぐいす張りの細廊下がキューッとふしぎな音をたてて鳴いた、人の体重を受けて。
「誰です、そこにいるのは?」
お蓮様は低声にとがめた。
「誰だときいているに、誰? 何者です……」
五
「誰です」
お蓮様は、繰り返した。
鶯張りの板がきしんで、それに答えるように鳴るだけ……返事はない。