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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

おまえは何を言うのです。わたしはここに、さっきから一人で……」

沈思にふけっていたお蓮様、胸の思いが声に出て、思わず、あれやこれやとひとり言をもらしていたことは、彼女自身気がつかない。

もう、いつのまにか夕暮れです。夏の暮れ方は、一種あわただしいはかなさをただよわして、うす紫の宵闇が、波のように、そこここのすみずみから湧きおこってきている。

どこか坂下の町家でたたく、追いかけるような日蓮宗の拍子木の音。

やっと丹波は納得したらしく、ふしぎそうに首をかしげると同時に、グット刀をおし反らした。

「ハテ、面妖な! いまたしかにどこかで、アノ、源三郎――伊賀の暴れん坊の笑い声が、響いたような気がしましたが」

何やらゾッとするのをかくして、お蓮様はあでやかに笑った。

「ホホホ、仏様が笑うものですか、気のせいですよ――しじゅう気がとがめているものだから」

「それはそうと、お後室様、あの丹下左膳とやらは、萩乃様をおつれして、いったいどこへまいったのでござりましょうな」

「そんなことはどうでもいいじゃないの。わたしはなんだか、もうもう気がふさいで……」

「ハッハッハッハ、それは、お一人でこんなところにこもって、何やかやともの思いをなさるからじゃ。