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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

馬を彫らせては、当代唯一無二の名ある作阿弥殿、イヤ、かようなところに、名を変えてひそんでおられようとは……?」

主水正がうやうやしく頭をさげる前に、迷惑そうにちょこなんとすわっているのは、作爺さんです。老いの身の病気あがり、気のせいかこんどの病で、めっきりおとろえたようです。つぎはぎだらけの縦縞の長半纏の上から、夏だというのに袖なしを羽織って、キチンとならべた両の膝がしらを、しきりに裾を合わせて包みこみながら、

「ヘイ、なにがなんだか、おっしゃることがいっこうにわかりませんで、ヘイ。私は作爺と申す名もないもので……」

恐縮しきった作爺さん、救いを求めるような視線を、横手へ向けます。

「イヤ、そうお隠しなされては、てまえホトホト困迷いたす」

と田丸主水正も、横へ眼をやる。

そこに、小山を据えたようにすわっているのは、先ごろから、このトンガリ長屋の王様とあおがれている、巷の隠者蒲生泰軒先生だ。

両方から助だちを乞うような眼を受けて、

「ウフフフ」と泰軒は含み笑い、

「あちら立てればこっちが立たず……という、柳生の御使者どの、この御老人は単にトンガリ長屋の作爺さんでけっこうだとおっしゃる。