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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

ひとり言のよう口ずさみ、抜きはなった一刀をピタリ青眼につけたまま、ジリリ、ジリリと、爪先きざみに詰めよって行く。

もう草露もほしあがるほど、夏の陽は強く照りわたって、ムッとする土いきれが、この庭隅の興奮に輪をかけるのだった。

枯れ木に花の咲いたような、百日紅が一本、すぐ横手に立っている。そのこずえ高く、やにわに蝉が鳴きだした。

ジーンと耳にしみるその声のみが、この瞬間の静寂を破るすべてだ。

源三郎手付きの伊賀侍も、不知火道場の連中も、わきあがる剣気におされるように、その取り巻く人の輪が、思わずうしろにひろがる。

誰も彼も、いざといえば抜くつもり。

みな一刀の柄に手をかけて。

それと見るより、田丸主水正は、大声に叱咤して、

「双方助太刀無用! 手出しをしてはならぬぞ!」

白扇を斜に構えて、どなりました。

これが、峰丹波の待っていた機会!

柳生流でいう閂の青眼……押せども衝けども、たたけども、破りようのない伊賀の暴れん坊の刀法に、手も足も出ない丹波は、もしつぎの瞬間、源三郎が動きを起こせば、まず、その一刀は身に受けずばなるまい。ついに、ここで命を落とすのかと、こう頭にひらめいたのが、窮鼠の彼に意外な活路を与えたに相違ないのです。