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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
「もうそんなことは言わないでおくれ。だけど、ほんとうにそう思われてもしかたがない。だが、もうもうこれからは、けっしてお前をはなしはしないよ」
江戸から泊りを重ねて、もう日光までは眼と鼻のあいだ。ここまで来るあいだに、旅はことさらに人を近しくするもの。いわんや、血の通う母と娘である。
お美夜ちゃんも、もうスッカリお蓮様に親しんで、脚絆、草鞋がけのかあいい足を引きずりながら、
「ねえ母ちゃん、もうじき日光なの?」
「ええええ、あとほんのすこしのしんぼうですよ」
と、お関所へさしかかったときである。
「待てッ」
横あいから、グッと棒がつき出て立ちはだかった一人の侍、
「姓名住所は、何も聞かんでよろしい。ただひとこと――お前たちは、母娘であろうナ?」
七
以前のお蓮様なら、眉ひとつ動かさず、
「無礼をすると容赦はいたしませぬぞ」
ぐらい、ちょいと威猛高なところを見せたはずだが。
今は、名もない旅の女。
「ハイ」
と、口のうちに答えつつ、手ばやく裾を引きさげ、そこへしゃがみこみながら、
「お美夜や、コレ! 立っていてはいけません。お侍様に失礼があっては……」
と手を引っぱってすわらせようとするのも、できるだけ下手に出て、早くこの関所を通してもらいたいという、矢のような心があればこそ。