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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の……。

古歌にちなんで足曳と命名されたこの駿馬は、野に放したが最後、山鳥のように俊敏に、草を踏みしだき、林をくぐり、いや、鳥のごとく天空をも翔けんず尤物。

これをおいて、ほかにモデルはない。その足曳が、今この日光の山奥の仕事小屋に、連れこまれて、燃えあがるような作阿弥老人の制作欲の対象に置かれているのだ。

「さア、かいばをやろうなア」

と作阿弥は、まるで人にものを言うように、しきりにたてがみをなでながら、

「こんどは、ぐっと首を上げて、正面をにらんでいてくれよなア」

やさしく頼むように言うのですが、いくらりこうな馬でも、そう注文どおりにはいきません。

道具をほうり出した作阿弥は、すこし離れて、なかば彫りかけた首の像に、見いっている。

首から胴は一本で、刻みのあとの荒い馬の姿が、なかばできかかったまま立っている。

が、この未成品、すでに惻々と人に迫る力をもっているのは、やはり、作阿弥の作阿弥たるゆえんであろう。

「ウウム、陽明門の登り竜と下り竜が、夜な夜な水を飲みに出るというなら、この、おれの彫った馬は、その竜を乗せて霧降りの滝をとび越せッ!」