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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

毎日、昼間お蓮様は、縁のはしに立って、はるか眼下の杉の根を洗う、この小流れを見おろしたことを、彼女は、いま思い出した。

「そうだ! 運を天にまかせて――それよりほかに方法はない」

ひとり胸に答えたお蓮様が、あちこち室内へ走らせた眼に、とまったのは、お梶が床の間に活けてくれた花籠である。

秋の七草をいけたあの籠の中には、竹筒が入っている。そうだ!

お蓮様は裾を乱して、片隅の文机の上の硯箱と、料紙入れへかけ寄りながら、

「お美夜! お前に、こんなことをさせたくはないけれど、二人の命の瀬戸際だからね。今母ちゃんがお手紙を書いて、あそこの竹筒へ入れるから、お前はそれを持ってこの裏山づたいに谷川へ――いいかえ!」

御代参

一

宇治道中の茶壺駕籠を、荒しに荒して、東海道に白い旋風が渦まくとまでの評判をたてた丹下左膳。

いくつとなく壺を手がけても、めざすこけ猿の壺には、まだ見参しない。

壺中の天地、乾坤の外。

一つ事に迷執を抱き、身、別世界にある思いの左膳は、朝夕夢のこけ猿を追って、流れ流れてふたたび江戸へ……。

第二の故郷。

白髪、江を渉り、もとの路をたずぬ。何年も江戸を明けたわけではないけれど、しきりに、そんな気がしてならない。