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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

刀身に、白く月が冴えた。

どすッと、何か、水を含ませた重い蒲団を、地面へたたきつけたような音がしたのは、今の一刀が、みごと左膳の深胴にはまったのか……。

と見えた刹那。

ひょろっと手もとへ流れこんだ左膳の体あたり、無造作に持った濡れ燕の柄が、その切っさきを受けとめて、かわりに、足をすくわれたように空に泳いでいるのは、かえってその斬りつけたひとり。

ふしぎ!

いつ濡れ燕が羽ばたきしたのであろう。

今の重い音は、かれの上半身をななめに斬り裂いた濡れ燕の、血をなめた歓声だったのだ。

「来るかッ。オイ、来る気か」

いっぱいにゆがんだ微笑を浮かべた左膳の顔を、月がぼんやり照らしだす。

眼にもとまらぬうちに、同僚の二人まで失った柳生の連中は、浮き足だったのだろう。

「おおそうだ、これから切通しへ出れば、妻恋坂はさほど遠くはない」

「うむ、われわれの手にはちょっと負えそうもない。若殿源三郎さまを御加勢にお願い申して――」

うまい逃げ口上もあったもので、一人がぱッとかけ出すと、残っていた三人ほども、一時にそのあとを追って、右側の軒下づたいに、本郷のほうへスッとんでゆく。