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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
もし小刀の先で傷つけでもしようものなら、元も子もなくなる……。
上から削るように、紙を剥がしてゆく老人のしわ深い額には、水晶のような汗の玉が――そしてまた、その愚楽の手もとを見守る八代将軍吉宗様と、大岡越前守の手にも、いつのまにか汗が握られているので。
壺一つを中に、当時天下をおさえた三賢人の吐く息が、刻々熱く、荒らくなる。
物事の肝どころをツボと言いますが、それは、このこけ猿の茶壺から起こったのです。
「紙というものは……こうしてみると――わりかた……丈夫な――ものとみえる」
愚楽老人、そう一言ひと言、切って言いながら、心気のすべてを小刀のさきに集めて、一生懸命、
「世辞をかためて浮気でこねて――じゃアねえ、糊でかためて時代がたって……まるで岩のようじゃわい」
と愚楽、あまりに緊張しすぎた室内の空気を、笑いほごそうとするかのように、そんなことを言った。
が、その気分の緩和策も、なんの役にもたたない。
紙はめくり進んで、もう柳生時代のころに達したらしく、糊と紙のあいだにいつのまにか虫がわいたとみえて、模様のような虫食いの跡が見えてきた。それと同時に、息づまるような三人の力の入れ方もいっそうせまって、今はもう、部屋の空気そのものが固化したよう……緊張の爆発点。