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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「何を不吉なことを申す」

若侍は躍起になって、

「天人の羽衣よりも、もっと貴重な品ですぞ、隊長殿。こけ猿の壺に縄がついて、あの根あがり松の下枝に、ひっかかっておるではござらぬか。それが、さわやかな朝風に吹かれて、ブラーリ、ブラリ……」

「寝ぼけたな、貴様」

「夢にもこけ猿を忘れぬゆえに貴公、かわいそうに乱心めされて、さような幻影を見るようにあいなったか」

「こけ猿が松の木などに、ぶらさがっていてたまるものか」

「嘘だと思うなら、出て来て見るのがいちばんの早道だ」

一同はがやがや言いながらその発見者の若侍に付き従って、ゾロゾロ庭先へ立ちおりてみると、高大之進をはじめ、尚兵館の一同、イヤ、驚きました。

驚くわけです。

庭隅の築山のふもと、江戸家老田丸主水正が、何よりの自慢にしている一本松……。

その梢に、黒い西瓜のようにブラリとひっかかっているのは、紛れもないこけ猿の茶壺でございます。

ポカンと口をあけた高大之進、

「ああ、わが輩も、寝てもさめてもこけ猿、こけ猿と思ううちに、かような怪しの幻を見るようになったか」

とつぶやいて、思わず眼をこすったといいますが、それはそうでしょう。